ちょっと気になる彼のこと 4

(背中痛てえ…。)

コンクリートの固さと冷たさに違和感を覚えて目を開けると、太陽の光が飛び込んできて一瞬目がくらんだ。

敬愛する十代目の、突然の態度の変容がわからなくて、もやもやして、HRと一限をさぼるつもりできた屋上だったが

獄寺は眠ってしまっていたらしい。陽はすでに最も高いところまで登っていて、下の階からはにぎやかな声が聞こえてくる。

時計をみると昼休みも半ばにさしかかろうというところだった。

(やべえ、おれ、寝てた…?)

慌てて体を起こしながら気配を感じて横を向くと、そこにはなんと愛しい十代目がおれの方を見つめながらちょこんと座っていた。

「おはよう、獄寺君。…ってか寝すぎだよ!!もう昼だよ?」

「じゅっ、じゅじゅじゅ十代目!?」

いきなり朝から昼にワープして、寝起きで、まだ頭が混乱してる上にいきなりツナが横に居たことで

獄寺の頭はまったく何が起きているのか理解出来ていなかった。

(やべえ、おれ、十代目の前で寝てた。あれ、でも、何で十代目がここに?そうか、昼か?)

それでも十代目の前でだんまりを決め込む訳にもいかず、出た言葉はいつものコレ。

「…スイマセン…。」

「何に謝ってるの??」

「えっと…、貴方がいらっしゃることに気付かず寝ていたこと。それと…。」

「それと?」

「スイマセン…俺、何か十代目のお気に障ること言ったんスよね。それで十代目お怒りになったんですよね。

 スイマセン…。」

俺がそう言うと、十代目はちょっと考え込むような、困ったような、そんな表情を浮かべた後、何か決意したような顔をして。

俺は十代目、凛々しいなあなんて思いながらお顔を見つめているとそれがだんだん近づいてきて。

 

俺は 十代目に

 

ぎゅっと、抱きしめられた。

 

 

 

まだまともに動いていなかった俺の頭はその状況についていけるはずもなく

ただ十代目に触れられている場所がものすごく熱くなって、鼓動がどんどん早くなって。

十代目がどんなお気持ちなのか、なんで俺が抱きしめられてるのかわからない。

でも十代目に触れられてるってだけでうれしくて、幸せで。

気がついたら俺は十代目の背中に手を回し、その細身の体を抱きしめかえしていた。

 

 

(十代目の体、柔らけえな…。それに、すごくあったかい。)

他に何か考えるべきことがあったかもしれない。でも、とにかく腕の中の十代目の体温が心地よくて、それを確かめるようにまた

やんわりと力を入れて抱きしめると、十代目が俺の腕の中からつぶやくように言葉を発した。

「獄寺くん…、ありがとう。」

「十代目?」

お叱りを受けるようなことはしたかもしれないが、お礼を言われるような覚えはない。

十代目のお言葉の真意がよくわからず、俺はゆっくり抱擁をとき、十代目の表情を確かめる。

その顔は、俺の大好きないつもの柔らかい笑顔を浮かべていた。

「あの…十代目、俺に対してお怒りになってたんじゃないんですか。」

「怒ってないよ。獄寺君、何も怒らせるようなことしてないじゃん。」

「でも今朝、十代目が突然逃げるように行っちまうし、まともに話してくれなくなって…。」

「違うよ!!怒ってたんじゃなくて……怒ったんじゃなくて照れてたんだよ。君の言葉に。」

「俺の言葉??

 …笹川が十代目を褒めてたってことですか?」

そういうと、十代目はきょとんとした瞳をして。

「違うってば!!!…もう、ほんとに、こうやって改めて言うのもすごく恥ずかしいのに…。

 京子ちゃんじゃなくて、獄寺君のこと!!」

「お…俺のこと…ですか??」

「うん。俺、実は昨日の夜コンビニでばったり京子ちゃんと会ったんだ。それで、君と話したこと、聞いてたんだ。」

「え…。」

「京子ちゃん、嬉しそうに言ってた。君と、いろいろ話したって。君がすごく頭よくって、課題もすぐ終わったって。

 楽しかったって。」

「あ…、そ、そうスか。」

「それで…京子ちゃんが俺に言ったんだ。」

俺のこと…と十代目はおっしゃったけれど話されているのは相変わらず笹川のことじゃねえか…と思っていると、

それが俺の顔に出ていたのか十代目は一瞬、言葉を切ってこちらに向き直ってからおっしゃった。

「…獄寺君、ほんとにツナ君のこと好きなんだね、って。」

 

かあっと、顔が紅潮するのがわかる。

 

笹川のやつ、十代目に何言ったんだ!俺が十代目のことを好きだって言うのは間違いない

大切なボンゴレ十代目として、俺のボスとして心から慕っている

だからってなんで十代目にそんなこと言うんだ!

 

普段ならば、獄寺はツナのことを好きなんだろうと指摘されても「あたりめーだ!」と受け流せる。受け流せた。

山本あたりもよく「獄寺はほんとにツナのこと好きなのなー」なんてちゃかしている。

 でも最近の獄寺はツナに対してたんなる尊敬とか親愛以上のものを感じ始めていた。

獄寺自身それに気付き始めたばかりのときに、他ならぬ「恋敵」である笹川にツナを好きだなどと言われては

動揺するのも無理がなかった。

 

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