ちょっと気になる彼のこと 5

十代目に、知られたくない。嫌われたくない。俺が、十代目のことを「好き」だなんて。

笹川がどんな言い方をしたか知らないが、男に好きだなんて言われたらきっと十代目は気持ち悪いと感じるだろう。

しかも、ご自分が思いを寄せている人間からそれを聞くなんて。

 何を言ったらいいのか、十代目を直視出来ずに俯くと、十代目はさらに下から俺の顔を覗き込んできた。

上目遣いで俺を見上げる十代目のお顔に一気に脈が早まったが、そんなこと、十代目を可愛いなんて思ってる場合じゃない。

「スイマセ…」

「だからスイマセンじゃないってば!」

いつになく強い調子で俺のいつもの台詞をかき消した後、十代目は急に黙って、そのちょっとの沈黙の後、今度は急に

赤くなって、さっきの一言とは対照的なか細い声で話し始めた。

「獄寺君はいつも俺のこと褒めてくれて、すごいって言ってくれて。俺、それは確かに嬉しかった。

 今までそんなこと言ってくれる人、いなかったから。獄寺君が俺に好意を持ってるって伝わってきたから。」

思わず好意どころじゃないっス!!…と訂正したかったけれど、声を絞り出すように必死にしゃべられている十代目を見て

とにかく最後まで話を聞こうと思った。十代目…、何を、おっしゃろうとしているんだ?

「でも俺、わからなかったんだ。なんで獄寺君が俺に好意を持ってくれるのか。俺なんて何をやってもうまくいかないダメツナだから、

 頭も良くて、女子にも人気で、何でもできちゃう獄寺君がどうして俺と一緒に居てくれるのかって。」

「ダメツナなんかじゃないです!!」

話を聞こうと誓ったそばから、思わず大声で否定してしまった。だって、だって、十代目はダメツナなんかじゃない。

そんな風にご自身を否定するようなことを仰らないで欲しかった。

そんな、懇願するような俺の目が十代目のお顔を捉えた時、十代目は泣きそうな顔をなさっていた。

いや、笑って…る…? 辛そうで、でも幸せそうな、泣きだしそうな微笑。

「うん、獄寺君はいつもそう言ってくれるよね。そう言ってくれるけど、俺をすごいって言ってくれるけど、

 俺の何をすごいと思ってくれてるのか…わからなった。わからなくて、自信が持てなかった。本当に君の言葉が俺に向いてるのか。

 …『ボンゴレ十代目』に向けられてるんじゃないかって。」

「…!!」

「でも獄寺君が京子ちゃんと話したことを聞いて、獄寺君は俺を、沢田綱吉を見ててくれて、俺を認めてくれてるんだって

 わかったんだ…。やっと。それで京子ちゃんも言ってくれて、…獄寺君は本当に俺のこと好きなんだねって言ってくれて、

 …すごく、すごく嬉しかった。ああ、獄寺君の言葉は本当なんだって思った。」

十代目の声は、最後には本当に屋上の風の中に消え入りそうだった。そして、俺の右手をご自身の両手でかぶせるようにして、言った。

「信じて、いいよね…?」

 

何言ってるんですか、と言いたかった。俺が十代目に抱いてる気持ちは尊敬とか思慕とか、それだけじゃなくなっていて

この気持ちがバレるんじゃないかなんて俺は心配してたのに。

それ以前に、まず俺が十代目のことを尊敬してること、すげー人だと思ってること、その気持ちすら十代目に伝わっていなかった。

正直いってショックだった。でも…それ以上に情けなかった。その「届いていないこと」に気付かなかった自分の馬鹿さ加減が。

口に出して言ってることは、全部十代目に伝わってると思ってた。

けれど十代目がダメツナと呼ばれ続けてきた間にできた心の溝を埋めるには、それだけじゃ駄目だったんだ。

俺は、空いていた左手の手のひらを十代目の右手にかぶせて、十代目の両手をきゅっと包みこんで、深呼吸して、言った。

「もちろんです。俺は、十代目を心から尊敬してて、大好きです。どこが、って言い始めたらきりがないですけど

 十代目の優しさとか、あったかさとか、いざというときの勇気とか、十代目の全部が好きです。

 傍に居られてすげー幸せです。」

そう言った後、恐る恐る十代目の顔を見たら……俺の一番好きな顔だった。人を包み込むような、優しい笑顔。

抱きしめたい。キスしたい。…そんな思いが沸き起こって、十代目の肩に手を伸ばして向き合ったとき。

「キーーンコーンカーーンコーーン…」

何と間の悪いことか昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

(何でこんなときに…!!!)

時計を見れば確かに昼休みが終わる時間だけれど、何も今、このタイミングで鳴らなくてもいいじゃねーか。

(無視しちまおうか…でも十代目は授業に出たいだろうな…。)

十代目の肩に手を置いたまま、どうすればいいかわからず持て余していると、くすっと笑った十代目に手のひらをつかまれた。

「行こっか?」

「……はい。行きましょうか。」

俺の手をひきながら、校舎の中へ入ろうとする十代目。近づいたときに、十代目が小声で「ありがとう」とつぶやいたのが聞こえた。

 

本当は、傍に居られるだけじゃ満足できないくらい「好き」だけど。今は、俺が十代目に好意をもっていることだけでも伝わればいい。

伝わって、安心していただければいい。そう思いながら階段を駆け下りていく途中でふと足がとまった。

(さっき、チャイム鳴らなかったらどうなってたんだ…?)

「獄寺君?」

「あ、スイマセン!」

まあいーや、とりあえず、細かいことは後で考えよう。

まずは珍しく授業にでも出て、また、十代目の新たな魅力を見つけてやるぜ!

 

 

 

END (→あとがき

 

                                            

                                                                                                                                      presented by Rayri Minazuki on 11. Nov. 2008

 

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