Your Presence 2

「獄寺君がバイト!!?」

「しーーーっ!!ツナ、声でけえって!」

幸い、まだ教師は来ていなかった。

「ご、ごめん…。」

でも本当にびっくりしたんだ。あの、愛想が悪くて(俺以外には)不器用で(ダイナマイトの扱い以外)

営業スマイルなんて絶対に出来そうにない獄寺君がレストランでバイトしてるなんて。

 

山本が聞いて来た話はこうだった。

昨日の夜、クラスの中でも大人びてる女子が大学生の彼氏と一緒に行ったカフェで獄寺君そっくりの人を見たとのこと。

声はかけなかったし、向こうもかけてこなかったけど間違いなく獄寺君だとのこと。

その話を聞いた女子達が早速今夜、行ってみようと計画していること。

 

…あの獄寺君がカフェでバイト??接客とか、愛想笑いなんて一番苦手なことのはずなのに。

お客さんに逆ギレしそうだ…。

「本当に獄寺なのかなー。でもそうだとしたら獄寺が最近すぐ帰っちまってた理由はそれなのかなー?」

「そうだね…。」

もし本当にそうだとしたら何で急にバイトなんか始めたんだろう?

「どんなとこで働いてるのか見てみたいよなー。なあツナ、俺たちも行ってみねえ?」

「へ??」

「ほら、女子達が行くっていってるじゃん。俺らも様子見にいってみねえ?場所聞いたし。」

獄寺君のバイト現場。

…気になる。獄寺君が急いで帰って、何をしてるのか。何のために。知りたい。

「ええ〜武も行くの!!じゃあ一緒に行こうよ〜。」

「ずるーいじゃあ私も行く〜!」

「私も私もー」

「こらうるさいぞ席につけ!!!」

山本が一緒に行く、ということでまた女子が騒ぎだしたとき、ガラッとドアを開けてタイミングよく教師が入って来た。

とりあえず詳しいことは後で相談することにして、俺たちは自分達の席についた。

でも、当然のように頭の中は今聞いたことでいっぱいだった。

 

 

放課後、山本と俺は噂のカフェに向かった。

…はあはあ。息が切れる。

丁度野球部の練習が休みだったので、他の生徒とかち合わないよう授業が終わったら全速力で出て来たのだ。

そのカフェは一度雑誌でも見たことのある、エスプレッソがおいしいと評判のお店。

すごく流行ってる感じのおしゃれな外装で、ちょっと俺たちみたいな中学生が入るような雰囲気ではない。外国人らしきお客もいる。

本当に獄寺君がこんな店で働いているんだろうか。

山本も同じことを思ったらしく、窓から店内の様子を伺っているが獄寺君らしき人は見当たらない。

「やっぱり見間違えたんじゃない?獄寺君がカフェでバイトなんて…。想像つかないよ。」

「うーんでも確かに見たって言ってたんだよな〜。…あっ!ツナ!あそこ!店の奥!」

そういって山本がこっそり指差した先には、見間違えようのないきれいな銀髪が見えた。

ちょうど外からは死角になるところに居たらしかった。ツナと山本は思わず外から身を乗り出すような格好になって

店内を覗いてみたが、獄寺はツナ達には全く気がつかない様子でお客の注文をとったりコーヒーを運んだりしている。

(ご…獄寺君が接客してる!!)

あの獄寺君がにこやかに応対できるなんて…と思ったのもつかの間、

「あいつ相変わらず愛想ねえなあ。」という山本のつぶやきに反応して彼の人の顔をよく見てみると、

注文された品を運ぶ時はもちろんお客さんと話す時も笑顔なんてとんでもなく、ぶすっとした顔をしている。

これでよくカフェでなんて働けるなとツナは思ったが、店内を見回してみて納得がいった。

店内の客の8、いや9割は女性。そしてその多くが一緒に来た友人と話すふりをしながら獄寺に熱心な視線を送っていた。

彼女らは獄寺がどんなに無愛想でも彼にサーブされたいらしい。彼が近づくたびに嬉しそうな顔をしていた。

これだけ女性に人気があれば、多少無愛想でも店には全く問題ないだろう。

また何人かいる外国人客とも獄寺は問題なくやりとりしていた。外国人が相手というだけで及び腰になってしまう人間もいるくらい

だから、獄寺は店にとって便利な存在なはずだ。

「よし、中入ってみっか!!」

「え、いっ、いいよ!!」

男二人でこんなところに、という気持ちもあったし、何より獄寺と向かいあうのが怖かった。

彼の不在によって自分が感じている寂しさをぶつけてしまいそうで。

「何でこんなバイトしてるの?」「俺は君がいなくて寂しいよ?」

(そんなこと…思ってない!!思ってる訳ない!!)

そしてそんなこと、思ってたって言える訳ない。

騒ぎばっかり起こして、短気で、独占欲が強くトラブルばかり起こす獄寺。

彼の不在を、何でこんなに悲しく感じているのかわからない。

寂しい訳ない。

俺が感じてるこの空っぽな気持ちなんて…気のせいだ。

 

中に入りたがる山本を説得して、俺たちは家路へと向かった。

明日はリボーンの誕生日だからいろいろ準備しなくちゃならないんだ、と告げると山本はしぶしぶ折れた。

そう、明日は10月13日、リボーンの誕生日。つまりまた去年と同じようにボンゴリアンバースデーパーティーが

開催されるはず。

「去年はひどい目に遭ったなあ…。」

そう、昨年は獄寺の出し物から逃れようとした結果、病院行きという羽目になった。

それでも、みんなで騒いで、ふざけあって、楽しかった。

…明日は来てくれるよね、ごくでらくん?

 

 

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