翌日も、空には雲ひとつない秋晴れだった。
俺はいつものように十代目のお宅まで迎えに行く。昨日の笹川の言葉をどのように伝えようか考えていた。
笹川が十代目のことを認めて、褒めていた。
笹川は十代目のことが気になっています。
そう告げたら十代目はどんなに喜ばれるだろう。心なしか足取りも軽くなる。相変わらず、胸の奥には小さなとげがささっていたけれど。
「おはよーございます十代目!!!」
「おはよう獄寺くん…。相変わらず朝からテンション高いね。」
「もちろんです!!!俺は十代目の姿が見えるだけで絶好調です!」
そんないつもどうりの会話を交わしながら俺たちは学校へ向かって行く。
今日はあの野球馬鹿は朝練でいない。昨日の笹川とのやりとりをお話しする絶好の機会じゃねーか。
そんなことを考えながら学校に向かっていく途中、隣にいらした十代目が俺の顔をじっと覗き込んでいることに気がついた。
…俺、何かしたか?それに十代目、笑っていらっしゃる?
「十代目、どうしたんスか?俺の顔、何かついてますか??それに、なんだか嬉しそうですね。」
十代目に見つめられてドキドキしている俺が尋ねると、十代目は逆に問い返してきた。
「うーん?何でもないよ。獄寺君のほうこそ楽しそうだね?」
「十代目がお幸せそうなら俺はそれだけで幸せです!…それに、今日は十代目にいいお知らせがあるんです!!!」
「いいお知らせ??…獄寺君から??」
「そうっス!!笹川のことなんスけど。」
「京子ちゃん??」
…笹川の名前が出ると微妙に十代目の声は高くなる。ちょっとの差だけど、それだけで十代目が喜んでるのが伝わってくる。
「ハイ。あの例の英語の課題で、昨日の放課後作業してたんスけど、」
「ああ、あのペアでやるやつだよね。獄寺君、京子ちゃんと一緒なんだよね。」
「ハイ。まあ作業自体はすげー退屈だったんですけど、…途中で笹川が十代目のことを話し出したんですよ。」
そう言った途端、十代目ははっとした顔をして黙ってしまった。黙って、俺の顔をちょっと下から見つめてくる。
十代目、相変わらず綺麗なお顔だなあ…。なんて思いながら俺は続けた。
「笹川は十代目に大注目っスよ!最近の十代目のご活躍とか、やたら気にしていて…。
十代目はすごい男だって言ってました!やりましたね!!」
「まあ十代目はもとからすげー方なんで今更って感じもするんスけど…。ようやく笹川も気付いたみたいですね。
よかったっスね十代目!!」
「…それで俺のこと話してたの??二人で??」
あれ?無理矢理にでもテンションをあげて十代目を喜ばせようとする俺に対して、
意外とと言っては失礼だけど、十代目は落ち着いてらっしゃった。
「あ、はい。俺も十代目が褒められてたのでうれしくなってつい十代目の素晴らしさについて
いろいろしゃべっちまいました!!」
「も〜、恥ずかしいからやめてよ!!」
…なんて言葉が返ってくるかと思ったけれど。十代目は少し照れたような、でもすごくうれしそうな表情を浮かべたまま
何も言わなかった。そして急にスピードをあげて歩き出した。
「ちょっ、十代目!?」
スピードをあげて歩き出した、というよりツナはもう小走りだった。
獄寺も遅れないように付いて行く。
(…どうしたんだ?俺、変なこと言ったか?でも十代目、喜んでらっしゃるみたいに見えるよな…。)
「よっツナ、獄寺。おはよー。まだ時間は平気だぞー?」
そんな風に言われるくらい、校門の前に着いた時には二人とも息を切らしていた。
挨拶をしてくるクラスメートや友人達に応えながら、でもさっきまでの会話については何も触れずにツナはすたすたと
教室へと向かって行く。
(十代目…?ホントに俺、何か失礼なこと言ったのかな…。)
獄寺はとりあえずツナを追っていったが、教室に向かう途中でためらいがちにツナに話しかけても、なんとなくはぐらかされる。
「十代目!何に怒ってらっしゃるんですか!?」
「…別に、俺怒ってないよ。ホラ、早く教室行こう?」
なぜツナの態度が変わったのかわからない獄寺はものすごい不安を覚えていたが、肝心のツナが何も言ってくれなければ
どうしようもない。
もやもやした気持ちを抱えたまま、獄寺は教室の入り口でUターンして
屋上へと続く階段を登り始めた。
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