すきだから サンプル
「そ、そそそうだ、沖田さんよかったらここ、一緒に行きませんか!?」
 動揺を隠そうと、そう言いながら先ほどのチラシを押し付けるように差し出すと、沖田の表情は一層怪訝なものとなった。
「は?俺とかい?」
「はい!土方さんはこの店のマヨネーズがうまい、って言ってますけど…甘いものも本当においしいんですよ」
「なんだ、やっぱり土方なんじゃねェか」
「ち、ちち違いますよ!いや、あの、ほんとお勧めの店なんで!たまには沖田さんと親睦を深めたいなと思いまして…」
 焦りすぎてもはや何を言っているのかわからないが、そんな新八の様子を見ながら、一瞬考えるような素振りを見せた後、ニヤリと笑いながら言った。
「それじゃあ、一緒に行かせてもらいやすかね」
 沖田がこんな顔をしたときは、たいてい後でひどい目に遭う人間(主に土方)が居るのだが… 
新八はとりあえず、その場をやり過ごせた達成感でいっぱいで、気がつかなかった。

(P10-11より)

 

 普段、二人で話しているところなどほとんど見たことはない。接点など思いつかなかった。人のことは言えないが、
沖田と新八は普段特に関わることもないし、土方の知る限り共通の話題などありそうになかった。
 けれど、そんな自分の情報とは裏腹に。二人はひどく、楽しそうに見えた。
に、新八は沖田の話に聞き入り、表情をくるくると変え、声をたてて笑っている。
 
 自分と居たとき、新八は、こんなに楽しそうにしていただろうか。
 
 ふと、そんな考えが頭をよぎる。
 二人は、遠目に見ている土方には気がついていないようだった。
随分話に夢中になっているようだから、近づいても気づくかどうか。
 いや、そもそも近づいてどうするのか。あんなに楽しそうに話している二人…沖田はともかく、新八の邪魔をするのか。
 今、沖田の横で楽しそうに笑っている新八を見ているのも心が痛いが、
話の邪魔をして悲しそうな表情をされることを想像すると、二人のほうに向かっていた足が自然に止まる。
そして土方は踵を返すと足早にその場を立ち去った。

(P24-25より)

 

「いつの話だ?最近オマエに断られっぱなしだったから、いつのことだかわかんねえな」
 イヤミを込めて土方がそう言えば、新八のほうはむっと頬を膨らませてこれまたイヤミを込めて言い返した。
「『土方さんが、』ドタキャンした日です!急な任務だとか言って」
 怒った顔でそう言われて、土方は押し黙る。…わからない、と言ったのは嘘だ。本当は覚えている。土方だって、断りたくなどなかったのだから。
「…あの日は、悪かったな」
「別に、僕は気にしてませんよー。沖田さんと行けて、楽しかったですもん」
「…あー、そうか。そうかよ」
 途端に声のトーンが一段下がる。土方にしては珍しく、素直にそう謝ったのだが新八のわざとらしい言い方にカチンときて、
ついぶっきらぼうに言い返してしまったのだ。だが、新八はそんなことは気にせずに続けた。

「本当に、楽しかったんですよ。…

(P34より)