「…あれ、僕…?」
目覚めたのは、やけにだだっ広い部屋の真ん中にしかれた布団の中だった。
日光をよく浴びた羽毛の匂いと、真新しい畳の匂いが混じった部屋。
なぜ自分がこんなところにいるのか全く思い出せず、でも誰かがずっと抱きしめていてくれた、その感触だけは残っている。
(だって僕、土方さんと一緒に花火をみていて…あれ?夢?どこまでが夢…?)
全てが夢だったのかと思いかけるも、布団に残る煙草の香りと枕元に置かれた空の煙草ケースが
彼の人の存在を強調する。
「もしかして、僕、一晩中土方さんの腕の中で泣いてた…って、うわああああああ!!!」
あまりの恥ずかしさに枕に顔をうずめて隠れようとしても、抱きしめられていた感触は消えない。
むしろ、生々しく思い出される。
(何やってんだ!何やってんだ僕!呆れられた!絶対呆れられた!!男なのに、
しかも16にもなって慰められながら泣いてるなんて!!!)
夜通し泣き顔を見られていたかと思うと会わせる顔がなくて、今ここに土方さんがいなくてよかったと思う。
と同時に、じゃあどこに行ったんだという疑念がようやくわき、辺りを見回すと煙草ケースの下におかれた手紙に気がついた。
表には整った字で、『志村へ』と書いてある。何が書かれているのかを考えると読みたくない気持ちのほうが大きかったが、
このままにしていく訳にも行かない。散々開けようか開けまいか逡巡した後、思い切って封を切った。
『先に帰る。電車賃はこれで足りると思うからゆっくりしていけ。
誕生日おめでとう。祝ってやれなくて、悪かった。
土方 』
たった4文の、短い手紙と電車賃には余るほどのお金。最後の一行は修正液で消されていた。
何が書いてあったか気にならないと言えば嘘になる。でもこの最後の二行だけで充分だった。
(祝ってやれなかったなんて、そんなことないです…!)
10年間、思い出さないように、気付かないようにして、自分の感情に蓋をして過ごして来た誕生日。
その日を、土方さんと一緒に過ごせて、花火を見られて、心の中のかけていた部分が満たされていくのと感じた。
(早く、早く江戸に戻りたい。お礼を言って、それで言うんだ。
『また来年も花火を観に行きましょう、』って。よし!)
僕は手紙を大事に懐に入れ、布団を片付けて旅館を飛び出した。
逸る気持ちに反して、土方さんに会えたのはそれから10日後。
テロの噂があったり、また上から面倒くさい仕事を押し付けられたりと、街中かけずり回っていたらしい。
だからあの消された一文に、土方さんも同じ思いをこめていてくれたことを知るまで
僕は10日待たなくてはならなかった。
『先に帰る。電車賃はこれで足りると思うからゆっくりしていけ。
誕生日おめでとう。祝ってやれなくて、悪かった。
また来年も、一緒に観られたらいいな。
土方 』
Presented by Minazuki on 29. July. 2009