「ちょ、ちょ、ちょ、獄寺君!だめだよ…こんなところで!人が沢山居るし、知り合いだっているかも…。」
いくら闇にまぎれているとはいえ、これだけ大勢の人がいては誰がこちらを見ているかわからない。
それに、普段はその美しさが際立っている獄寺の銀髪はこんなときには逆に目立ち過ぎた。
しかし、獄寺はツナを抱いたまま離そうとしなかった。むしろその腕にはだんだんと力が込められる。
いつもなら獄寺は屋外で、しかも人が大勢居るようなところでは決してツナに対して「普通の友達」以上のことはしない。
いや、本人はしたいのかもしれないがツナが必死で止めるのでやらないようにしている。
しかし今日の獄寺は、ツナの制止にも腕の力を緩めようとはしなかった。
「大丈夫です。暗がりだからわからないですし、すぐ、離します…。でもその前に、十代目。」
獄寺のいつになく真剣な声と、暗くてもわかるその真剣な瞳におされて、ツナは思わずここが神社で、
どこにクラスメートがいるかわからない状況だということも忘れて獄寺君の髪、きれいだななんて考えていた。
対して獄寺はそんなツナの視線を感じ取ったのか、肩に手を置いたまままっすぐ向き合うような姿勢をとり、
ツナの瞳を見据えて話し始めた。
「十代目、今年俺はあなたに会えて幸せでした。できることならもっと前から会っていたかった。
でも、今年からでも、あなたに会った瞬間から俺の人生は変わったんです。
俺と出会ってくださって、傍において下さって、本当にありがとうございます。
それだけ、二人っきりのうちに言っておきたかったんです。」
そう言って、獄寺は深々と頭を下げた。
獄寺が頭を下げていたのはおそらく十秒程度。確かにお辞儀にしては長いけれど、それでもほんのちょっとの時間。
だが、そのわずかの時間の後に獄寺が頭を上げてツナの顔を見てみると、その目には涙がたまっていた。
「じゅっ、十代目…!?スイマセン、俺何か失礼な事言いましたか!?」
精一杯の感謝の気持ちを伝えたはずなのに大好きな十代目を泣かせてしまい、今度は獄寺の方が泣きそうになる。
たった今まで男前だった獄寺が急に顔をくもらせて今にも泣きそうな顔で「十代目ぇ…」なんて
言ってくるのをみて、ツナは思わずくすっと笑て涙をぬぐった。
そして、獄寺の背中に手を回して優しくぎゅっと抱きしめた。
「じゅ…!」
さっきまで泣きそうだったのに、今度は体をぎくしゃくと強ばらせて焦る獄寺がかわいくて、ツナはもう一度
ぎゅっと獄寺の背中を抱えて抱きしめた後、獄寺の方をまっすぐ見すえた。
「ありがとう、獄寺君。俺の方こそ、君に会えて本当によかった。
俺も山本が来る前に言っておきたいことがあるんだ。あのね、俺はね…」
「十代目…?」
ツナがその続きを言おうと口を開いた瞬間、辺りから拍手がまき起こる。
はっとして二人が時計をみると、時刻は0:00ちょうど。新しい年の、はじまり。
ツナと獄寺はお互いに顔を見合わせると、どちらともなく笑い出して、言った。
「明けましておめでとうございます、十代目。」
「明けましておめでとう、獄寺君。」
その声がまたぴったり重なっていたものだから、また二人して大きな声で笑い出す。
ひとしきり笑った後、ツナは獄寺に肩を預けるような体勢をとって、言った。
「この瞬間、となりに居るのが君でよかった。」
十代目から抱きしめられただけでもう死にそうなくらいどきどきしているのに、普段なかなか言われない
甘い台詞を言われてはもう我慢出来るはずがない。
十代目が、あまりにも愛しい。
獄寺は少し屈んでツナと同じ目線になり、すばやく自分の唇をツナの唇に重ねた。
ほんの、触れる程度の、一瞬のキス。
だがそれでもツナにとっては充分な衝撃で、一瞬何が起こったかわからなかった。
自分の唇を他人のそれとあわせるなんて初めてだったし、その相手はなんと同性の、それも獄寺君。
しかもこんなに大勢の人がいるところで。
普段のツナにとっては考えられないことで、パニックになってもおかしくないくらい。
何するんだよっ、と獄寺に文句でも言おうと思ったけれど、獄寺のものすごく照れて緊張して、
でも優しい笑顔を見るとツナはそんな怒りも忘れてしまった。
彼の表情を見るだけで、彼が本当に自分を慕ってくれて、大切に思ってくれているのがわかる。
そんな人からのキス。
そう考えるとツナはすごく温かくて、満ち足りた気持ちになった。
「今年もよろしくね、獄寺君。」
「もちろんです。よろしくお願いします、十代目。」
そう言って、もう一度お互いが顔を近づけようとしたとき。
「おーい!!ツナ!獄寺!やっと見つけた〜」
聞こえて来たのは聞き慣れた親友の声。
「…やまもと。」
「よかったー!こんな人ごみだからもう会えないかと思ったぜ!もう年変わっちまったけど、今年もよろしくな!」
まさかキスしてたところから見られていたのではないかと顔を見合わせるが、この様子ならどうやらバレてはいなさそうだ。
安心して、また二人同時に声をあげて笑い出す。
「なんだ〜?二人して。何か面白い事あったのか?」
「何でもねーよ、野球バーカ!」
「うん、こちらこそ今年もよろしくね!」
山本は一瞬、ん?という表情を浮かべたがすぐにいつもの笑顔に戻り、
「よし!じゃあお参りいくぞ!…って、ツナたちもお参りまだだよな?」
「てめーを待ってたんだよ!」
「よし、行こう!」
ツナは財布から5円玉を取り出し、ぎゅっと握りしめてポケットに入れてから相変わらず混雑してる参道を進み始めた。
左には山本、右には獄寺。離れないように、お互いの手を握りながら。
神様の前でのお願いはもう、決まっている。
この大切な友人達と、ずっと一緒にいられますように。
END (→あとがき)
Presented by Rayri Minazuki on 31.Dec.2008
Adjusted on 4. Jan.2009