「あ、もうこんな時間じゃん!!じゃあ母さん、行ってきます!」
「行ってらっしゃい。寒いから風邪ひかないように暖かくしていくのよ。」
「うん、わかってるって。行ってきまーす!」
言うが早いか、ツナはばたばたと騒がしくドアを開けて駆け出て行った。
12月31日午後11時33分。昨年までのツナならこの時間は奈々と共にテレビの前にいて、
年末の音楽番組なんかをぼんやりと眺めている時間だった。
特に面白いとも思わないけれど、せっかくの年末にひとりでゲームをしているよりはましだった。
他のクラスメートはお互い誘い合って初詣に行ったり、カラオケに行ったりしているのに
自分にはそんな相手がいない、という現実をごまかすかのように
「大晦日は家族と過ごすべきなんだ」と言い聞かせ、明日には忘れてしまうテレビの中身に視線を向けていた。
心の底では他の級友達のようにふざけながら、笑いながら、新年を迎えたいなと思いながら。
でも、今年は違う。
11時45分。約束の時間より5分早いけれど、十代目を待たせるなんて言葉は彼の辞書にはない。
待ち合わせ場所のコンビニ前でタバコを吸っている獄寺の手はカタカタとふるえていて、
ずいぶん身体が冷えているみたいだ。ツナは獄寺の姿を目にとらえると自然に笑みがこぼれた。
「獄寺君、お待たせ!!」
そう声をかける前に、ツナの気配を感じ取ったのだろう。
振り返った獄寺はすぐにタバコの火を消し、まるで寒さなんて感じさせない満面の笑顔をツナの方に向けた。
「十代目!とんでもない、今きたところっス!」
『お待たせ、』とツナがいうと、獄寺は必ずそう応える。ずっと待ってたなんて言ったらツナが負担を感じるから。
ツナもそれがわかっているから、何も言わずにただ微笑み返す。
「山本はまだっスか。相変わらずルーズなやつっすね!十代目をお待たせするなんて…。」
「あ、山本なら連絡があって、後で合流するって言ってた。先に行っててだって。」
「え、そうなんすか!じゃあ行きましょう!」
たった今、遅れている山本に対して文句を言っていたはずなのにいざ遅れてくるということがはっきりすると
獄寺の顔は明らかに輝いていた。いつも山本に対して悪態をついている獄寺だが、彼だって決して山本が嫌いな訳じゃない。
でも今日は、いや、後5分で始まる明日は新しい年が始まる日。
そんな特別な日、特別な時ををツナと二人で過ごしたいという気持ちがない訳はなかった。
そしてそんな全開の笑顔に隠れてはいたけれど、ツナもそんな獄寺を見てふっと微笑んだ。
もちろんツナは大親友の山本も一緒に3人で初詣に行くのを楽しみにしていた。
いつもみたいに馬鹿言いながら、わいわいと。
でも、その一方心のどこかで獄寺と二人で新年を迎えることに期待していた気持ちもなかった訳ではない。
自分をこれだけ慕ってくれて、傍にいるだけでドキドキさせられる、この彼と。
「すごい人っすね…この町、こんなに人がいやがったのか。」
獄寺がそうつぶやきたくなるのも無理がないほど、年明けを目前に控えた並森神社は混み合っていた。
参道は人で埋め尽くされていて、1m進むのにもものすごい時間がかかりそうだ。
「ちょっとその辺で待って、時間ずらしてから行きましょうか?」
「そうだね。あ、ちょっと待って。」
そう言ってツナが液晶画面に目をやるとそこにはメール受信、の文字が。
「山本からメールだ。もうすぐ着くって!」
ツナとしては別になんの悪気もないのだが、その声が嬉々としたものであったことにとなりの彼はちょっと不満を覚えたようだった。
獄寺はほんの一瞬だが考え込むような表情をした後、もこもこのコートを着たツナをぐっと自分の方に
引き寄せ、ツナは獄寺に抱きかかえられるような体勢になった。
→ next