(…寒い!!)
ツナは、その全身を覆う冷えた空気によって浅い眠りから呼び覚まされた。
天井を見上げるといつもと違う景色が目に入り、戸惑いを覚える。
いや、正確には真っ暗な部屋の中でぼんやりとうつる影に違和感を覚えた、という程度だけれど。
自分が寝ている場所もいつものふかふかしたベッドの上ではなく、まだ青い香りがたっている新しい畳の上だった。
(あれ…俺、山本の部屋で獄寺君と山本と三人でしゃべってて、それで…。)
自分がなぜここにいるのか思い出そうと、昨晩の記憶をたどるけれど今ひとつそれが不明瞭なことに軽いいらだちを覚える。
おまけにぐっすり眠っていたようで、今ひとつ頭がすっきりしない。
だが、それも無理のない話だった。
昨晩、山本、獄寺、そしてツナの3人はまたいつものように一緒に宿題を片付けていた。
(と、いっても半分以上は獄寺が解いたのだけれど)
そして延々2時間ほどかけて大量に出された課題は消化出来たが、明日はどうせ週末だからゆっくりしてけ、
という山本の提案にのって寿司を食べ、テレビを見て、3人で盛り上がっているうちにいつの間にかテーブルの上には
空になった缶ビールやチューハイが転がっていたのだ。
てっきり炭酸入りのジュースだと思っていきおいよく飲んだら、普段アルコールを飲まないツナがどうなるかは
火をみるより明らかだった。
「…今、何時だろう…?」
まだぼやけている頭で、時計を探して体を捻ろうとして、自分のとなりに何か生温かいものがあるのに気がつく。
「…獄寺君!!」
ツナは思わず、声をあげそうにしてとっさに自分の口を手のひらで押さえる。あまりの驚きに胸はバクバクいっている。
3人で居たのだから、同じ部屋に獄寺が居るのは当たり前なのだけれど、まさかこんな、すぐ横で眠っているなんてツナは
思わなかったのだ。
しかも獄寺は、衣服以外何も上にかけていないようだった。まだ暗がりになれていない目でもそのくらいはわかる。
ツナ自身はそれほど寒さを感じていなかったがそれもそのはず、彼の体は二人分の毛布でしっかりくるまれていた。
恐らくいつものように獄寺が、自分の分までツナにかけたのだろう。
「本当にもう君は…。」
いくら暖房の効いた部屋だとはいっても、12月の末に何もかけずに寝ていては寒いに決まっている。
ツナは自分がくるまっていた毛布をとって、そっと獄寺にかけようとした。
が、足の先がはみ出ないようにと気をつかってかぶせようとするけれど、
なかなかうまくいかずに肩が出てしまったり、足先が出てしまったり。どうにかしようともぞもぞ動いているうち、
「うわっっ!」
獄寺のひざあたりにひっかかって転んでしまったツナが落ち着いた先は、ちょうど獄寺の胸元だった。
獄寺が目を覚ましていない事にほっと一息をつき、体勢を立て直そうと腕をたてるが、ふいにぐい、とその腕をつかまれる。
そののびて来た手はもちろん獄寺のもので。ツナはそのまま獄寺の腕の中へ抱き寄せられた。
獄寺のきれいに整った顔のすぐ下に自分の頭があり、それは静かな寝息まではっきり聞こえてくるくらいの距離だった。
「ちょ…ご、獄寺君!」
小声で呼びかけてみるが返事はない。この寝息のリズムからしてもどうやら、獄寺はまだ眠っているようだった。
とすると、彼のこの行動も寝ぼけてやっているのか。それにしては力が強いけれど。
ツナはなんとか抜け出ようとして体を動かしてみるが、獄寺の腕はがっちりとツナを捕えて話さない。
この様子では獄寺を起こさずに動くことも無理だろうし、何より、これだけ密着して感じる獄寺の体温は…
不思議なほど心地いい。
ツナは彼の腕から出る事をあきらめ、そのまま再び眠りにつくことにした。
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