「獄寺。ごくちゃん。隼人兄。…タ…タコ頭。」
電気を落とした俺の部屋で、獄寺君はまだ気を失ったまま、ときどき「うわあ!」とか叫んでいる。ビアンキのことでも思い出しているんだろうか。
大丈夫かなこの人…と思いつつ俺はベッドの横に体育座りして、みんながどうやって獄寺君のことを呼んでいるのか思い返してみていた。
やっぱり、山本に言われた事が気になっているみたいだ。
(そんなに仲良くないロンシャンもあだ名で呼んでるもんなあ。)
まあ彼の場合はあのあけっぴろげな性格がだからだろうけど、ロンシャン以外にも獄寺君のことを「君」付けで呼んでいる人が
意外に少ない事に気がついた。多分、知り合いの中でも女子を除いたら俺くらいだ。
(最初の出会いが怖かったから、呼び捨てに出来なかったんだよなあ…)
今でも忘れない、初めて獄寺君と初めて会った時。
転入生として紹介された獄寺君はいきなり俺のことをにらみつけてきて、机を蹴飛ばし、その日のうちに
「どっちが十代目にふさわしいか勝負だ!」
なんて言って、ダイナマイトを投げつけて来た。
…よく考えると、本当に危ないなこの人!!!
だけど今では俺の事を十代目、十代目と言って(多分)慕ってくれていて、俺のことを大切にしてくれている。
それが裏目に出る事も多いし、正直迷惑だと思っていたけれど…やっぱり、俺のことを守ってくれてるんだ。
ほんとは、「獄寺君」とかそんな距離を置いた呼び方じゃなくって、もっと仲良しっぽく呼んでみたいけど。
そう、どうせなら「獄寺」っていう呼び捨てでもなくて。
「はやと…。」
(…うわああああああ、な、なんかめちゃくちゃ恥ずかしい…!!!)
独りでつぶやいたその言葉がすごく照れくさくて、思わず近くにあったクッションなんかに顔を埋めてバンバン床に叩き付けていたら
後ろからいきなり不安そうな声がした。
「だ…大丈夫ですか十代目??」
「え?わ、わあっ!!!」
振り向くと、暗がりの中でさっきまでうなされて気を失っていたはずの獄寺君が、
上半身を起こして心配そうにこちらを見ているのがわかった。
もう、さっきまで倒れてたのになんでいきなり目を覚ますのさ!!!!
…まあ、これだけ物音を立てれば目が覚めても不思議ではないけれど。ひとりで興奮している姿が恥ずかしくて、
ツナは思わずばっと顔を背けた。
「ど、どうしたんですか十代目?何か…」
「な、何でもないよ!何でもないから!!」
「しかし…」
そう言うと、獄寺君はその綺麗な緑の目にますます深く困惑の色を浮かべて俺の方をじっと見つめて来た。
その視線に、さっきつぶやいた「はやと」という言葉の響きが妙に艶かしく合わさって、思わず顔が赤くなる。
「何でもないってば!まだビアンキいるからここに居てね!!!」
獄寺君の方も向かずにそれだけ叫ぶと俺は慌てて部屋を飛び出した。
後ろで「十代目、待って下さい!」という声が聞こえるけれど、待てる訳ない。
だって近くにいって、こんなに顔が赤いのがばれたらきっと変に思われる。
(「なんで俺、こんなドキドキしてるんだろう…!?」)
普段、友達の下の名前を呼び捨てにする事なんてあんまりないから。そうだ。それで普段と違うからどきどきしたんだ。
きっとそうだ。それだけだ。
そうやって自分を納得させながら、後ろも振り返らずに部屋を飛び出したツナはもちろん気付かなかった。
獄寺の顔も同じくらい真っ赤になってて、獄寺の胸の中も同じくらいどきどきしてることに。
さっき聞こえた自分の名前は空耳なんじゃないかと思いながら。
そんな二人がお互いの名前を呼び合えるようになるのはまだまだちょっと先のおはなし。
END (→あとがき)
Produced by Rayri Minazuki on 13. Dec. 2008